人生はバランス

毎日ムスコの乗ったベビーカーをガラガラ押して長い長いケヤキ並木の坂を降りていきます。蝉の鳴き声と夏の木漏れ日が小さい頃母に手を引かれて緑の中を歩いていた時の記憶を思い起こさせます。ムスコも大きくなったらこの光景を思い出すのでしょうか。(まだ3ヶ月半だから覚えてないか。)
某雑誌で知ったのですが、ベビーカーを押す女性を「カートママ」と言うそうです。面白いのでこの表現を後々いただこうと思います。

思えば昨年2011年9月5日に妊娠が発覚し、9月9日には重症悪阻(いわゆる妊娠悪阻)で絶食絶水状態になったため病院で点滴を受けていました。水すら飲む事ができず1日10回以上嘔吐しながらも点滴しながら(当時抱えていたプロジェクトのせいで)仕事に行っていました。それから数日後に自身の誕生日を迎えたのですが、その日だけはなぜか体調が少し落ち着いており、終日研修に出かけていました。その研修は「タイムマネジメント研修」という名称で、Franklin Coveyというアメリカの研修会社が主催していました。
「この世には、死ぬときに『もっと仕事をしておけばよかった。』と言って死んでいった経営者は1人もいない。」という言葉で始まったその研修では、フランクリンプランナーと呼ばれる黒い手帳を配られ、それをもとに、超大雑把に言えば以下のような作業を行いました。

1.価値観の明確化
私たちの行動を支えているものは個人個人の持つ価値観であり、価値観がすべての土台となる。自身の価値観は日々の平凡な生活の中から発見するものであり、私たちの日々の行動が価値観と結びついた時、真の充実した人生を送る事ができる。
私たちの心の中にあるあらゆるものごとに対する判断基準、価値基準を明確にする。また、生きていく上での役割とその対象者のニーズを考え、人生の目的を明確にするmission statementを作成する。

2.目標設定
発見した価値観やmission statementを実現するために具体的な目標を設定し、目標実現のためのステップを月、週、日時に予定として落とし込み計画する。また、自身の役割を認識し、その役割の中で今週出来る事は何かを考える。

これだけ見るとその辺の自己啓発書に書いてあるありきたりでつまらないものに見えるのですが、その時の私になぜかなるほどなーとしっくりきた点は、この研修が、充実した人生を送るためには、仕事、人間関係、自分の成長などをバランスよく保つ事が大切で、ひとつのことにだけ集中すると他の役割での信頼を損なう事になる、といっていたことです。要は人生はバランスなのだそうです。
バランスを取る最良の方法は「役割」であり、自分の今の役割を考え、この1週間で特に果たすべき役割は何かと考える事です。そして、それぞれの役割に対して、「今週、この役割において重要な事は何か、この役割として何ができるだろうか。」を問いかける事だそうです。

例えば、重症悪阻で苦しんでいた私の研修当日のフランクリンプランナー手帳を見ると、大雑把ですが、

1. 価値観の明確化/mission statement

  • 元気な子供を産むこと。
  • 身体/精神ともに健康であること。
  • 経済的、精神的に自立し、何があっても世界中どこでも稼げるような能力を維持し続けること。
  • 知性と魅力にあふれた洗練された女性であること。
  • 精神的なぜいたく、優雅さを追求すること。
  • 家族、友人への愛情

2. 価値観に従った週間計画

  • 私の持つ役割として今週やるべきことは? 

役割:プレママ: しっかり休息をとり、リラックスして、お腹の子供を守る。
役割:妻:住空間をおしゃれで清潔に保つ。料理を覚える。夫の話を笑顔で聞き、ほめる。子供に家族の歴史を見せるためのアルバム整理をする。
役割:娘:子供ネタで両親に電話をする。子供ネタで兄弟姉妹と盛り上がる。
役割:友人:メールやfacebookからのメッセージには必ずすぐに返信する。相談ごとにはポジティブなことしか言わない。
役割:女:おニューのオーガニックのクリームでボディケアを重点的に行う。
役割:会社員:ストレスを溜めずラクにできるだけ短期間でプロジェクトを完了させる効率的方法を編み出し実行する。

3. 上記を踏まえて本日私がやるべきことは?

  • マタニティOKの温泉旅館をサーチする。
  • 産休に入るまでの必要書類を取り寄せる。
  • クッションカバーを洗う。
  • ティファールの鍋を注文する。
  • 親に電話する。

etc...と日々のこまごまとしたやる事をリストアップしていくのです。

上記を見ると、当時絶食状態で何度も嘔吐を繰り返していた身としては研修の制限時間内にかなり苦し紛れにひねり出したものであることが伺えるのですが、たまたまその日は体調が小康状態だった、誕生日だった、妊娠発覚直後だったという3つの要素が重なったことで、この「人生はバランス」論は、妊娠後のこれからの生活を考える上で、何だか神様からの啓示のように思われたのです。

「人生はバランス」、その言葉を聞いたとき、過去に見聞きしたいろいろなことが頭を巡りました。35年前にアメリカへ移住し現地でバリバリのキャリアウーマンをやっていた叔母が50代になってからふと「やっぱり子供が欲しかった」と泣いていたという話、世間で娘に母親が自分の叶わなかった夢を押し付けつきっきりで英才教育をした結果30代になった娘が反抗して母娘世代間の対立が深刻になっているという話、40代後半のもと上司がアメリカ留学に娘を送り出す前日に涙があふれて止まらなかったという話、etc...その時、何か著しく偏ったところにエネルギーを注入しすぎてバランスを欠いた結果やってくる人生が少し怖く感じられたのです。
人間誰しもさまざまな役割を持って生活を送っています。もしある局所的なところにエネルギーを一点集中しすぎた結果、それがダメになってしまった途端多くの場合すべてが崩れてしまいます。それを知っていたからこそ、少し前の欧米社会からワークライフバランスの考え方が生まれ広がっていったのでしょう。
(冒頭の話に戻りますが、あの仕事の鬼スティーブ=ジョブズさんでさえ妻と子供2人の幸せな家庭を持ち、死ぬときには『家族より先に逝ってすまない。』と言い残したそうです。)

「人生は雑用の連続でその個々の雑用に意義を見いだせる人だけが『オレの人生は充実してる!』と言うことができる」、と流行りのブロガーちきりんさんが数日前に言っておられたのをふと思い出しました。確かに先述の研修のプロセスを見ると、あたしの人生って雑用のかたまりみたいな感じがします。

先日ちょっと不機嫌なことが続いたので、景気づけにムスコと夫と焼き肉に行って、その後、ハーブスのミルクレープを食べに行きました。場所はもちろん、休日他に行くとこがない家族が訪れる都会のジャスコ恵比寿ガーデンプレイスです。38Fの焼き肉屋もハーブスもベビーカーOKで良かったのですが、家族連れの鉄板プレイスにしてはあそこの駐車場って場所によっては階段を上り下りしないと店内に入れないのでバリアフリーではないですね。とにもかくにも今週も機嫌良く過ごせそうです。